会長のご挨拶
日本の大学への包装学科・包装学専攻の新設に向けて
会長 永井 一清
日本包装学会は、包装に関するすべての研究分野の発展をはかる日本学術会議登録の学術研究団体です。当学会は透明性を大切にしており、各年度の事業計画と前年度の事業報告も当学会ホームページなどで公開しております。単年度ごとの重点項目とともに運営・活動状況がお分かりになると思います。一方で、コロナ禍で学会活動が制限されて対面でのコミュニケーションの機会が著しく減ったこともあるためか、長期的な目標が忘れ去られてきているのではないかと感じる機会も出てきました。そこでストレートなタイトルを付けてみました。
当学会と他学会とで大きく異なる点があります。それは会員の所属団体の構成比において、企業の方が大学の方よりも多いことです。包装産業は古くからありますが、日本では包装学は学問として学校で学べませんでした。大学に包装学科や包装学専攻がなく、就職してから包装に関わるようになることが大きな理由と考えられます。当学会の発足も1992年と平成に入ってからであり、他学会より大変遅いです。
例えば理科は、高等学校での教育において、化学・物理・生物・地学の4つの自然科学に分類されます。そして大学での教育で、工学や農学、医学、薬学などの応用科学にも展開していきます。応用科学では理論通りに進まないことの方が多く、「理由は分からないけれども色々と考えて試してみたところ、こうやったらうまくいった。再現性もあり数式化もできた。」というような経験則で社会に貢献し、普遍的な理論による裏付けが後になることも多々あります。つまり実施例が先行し、後から本質的なことがわかるという構図の方が多いということです。ここでは理科の学問体系を例示させていただきましたが、包装学は、人文科学や社会科学などからの流れもある文理融合の学問です。
それでは、なぜ日本では学校教育において包装学を学問として教えていなかったのでしょうか? 歴史的背景として、近代国家の幕開けとなる明治時代に力を入れた基幹産業に、包装産業が選ばれなかったことが挙げられます。それに関連して、国家として、将来の教育者も含めた人材育成の優先順位が低く位置付けられたことが主な理由であると考えます。当時の時代背景から致し方ないと思います。
今の世の中ではどうでしょうか。文明開化から飛躍的に発展し、ライフスタイルや社会システムも大きく変わりました。食品、飲料、医薬品から日用品、工業材料、工業製品まで幅広く包む社会になっています。国民に選ばれた産業ということです。日本の包装産業の規模をあらわす出荷統計は年6.5兆円ほどで推移しています。包装産業はそれ単独で成り立つ産業ではありません。あらゆる産業に必ず関わる「縁の下の力持ち」の基盤産業に成長しました。正確な人数は把握できておりませんが、日本国内だけでも全47都道府県の隅々まで相当数の安定した雇用を生み出している産業になりました。
日本企業のはじまりは、国内だけで事業展開していたローカル企業でした。現在はどうでしょうか。本社は日本に置いていたとしても、地球儀を俯瞰して主要国に研究所や工場を設置し、各国際ブロックに支店や現地法人の会社を展開しているグローバル企業に成長しています。新興国や途上国で人口増加や生活水準の向上による経済成長が見込まれることから、これからも世界全体で見たときに包装産業の規模が大きくなっていくことは明らかです。
また、日本では少子化による人口減少が進んでいます。全国の大学が、他大学との差別化を図って学生を受け入れる努力をしている時代です。グローバル社会を意識しなければどの大学や企業も生き残っていけないことがはっきりしています。日本の大学に包装学科・包装学専攻を新設するチャンスが到来したのではないでしょうか。
包装学を学ぶ大学生・大学院生が増えることは、包装産業の規模と雇用の拡大に確実につながります。包装は、包まれた物が「必要な人がいる場所に届ける」ためにあります。包装が必要なことは、大人だけでなく児童や生徒にも大変分かり易いです。包装は、電気・ガス・水道ほどの公共性と市場規模はありませんが、現代社会の社会インフラの役割を担っていることは明らかであります。昨今の日本では、地方から若者を中心とした大都市への人口流出が進んでいますが、いくつもの大学に特色のある学科・専攻という学問の拠点があることにより、この流れに歯止めをかける手段にもなると考えます。
タイトルで明記した長期目標は、すぐに実現できるものではありません。当学会単独で成し遂げることも難しいです。包装業界の総力を結集する必要があります。包装業界の持続的かつ発展性のある明るい未来のために、日本の大学への包装学科・包装学専攻の新設に向けた関係各所への継続した働きかけは大切であります。本目標達成へのご支援ご協力をよろしくお願い申し上げます。
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